必要に迫られての善行

友人Aと立川へ。
立川駅は苦手だ。
人がタイダルウェイブの様に押し寄せてくるけど
さんごのゆびわを持たないオレはダメージを受ける一方なのだ。
Aはベーグルを買った。
朝ごはんにするという。
「朝ごはんがベーグルとか、エレガントだな」
というわけでオレも買った。
明日の朝、オレは貴族になるであろう。
近くに和菓子屋もあった。
「和菓子は卑怯だよな」
いちご道明寺なら仕方ないよな」
というわけでいちご道明寺を買った。
 

みずみずしくて甘酸っぱくて思春期を迎える少女の様だった。(←気持ち悪い)
 
帰りの南武線では列車の最後尾だった。
オレとAは端のスペースで吊革にぶら下がっていた。
電車がどこかの駅に停まり、誰かが降りた。
(二人分のスペースができたなぁ)
(でも誰かすぐに座るからオレたちは無理かなぁ)
とぼんやりそっちを見ていたら、携帯が座席に置きっぱなしになっていることに気づく。
 
右横のおじさんは気づかない。眠そうだ。
左横の女性は気付いた。そして新しく座った兄さんをチラチラ見てる。
新しく座った兄さんは携帯を多少気にするものの事情が把握できていない。
 
誰も動かないなら、しょうがない。
ドアが開いてから充分時間は経った。
間に合わないかもしれないけど一本ぐらいいいか。一緒にいるのAだし!(いい意味で)
素早くおじさんと兄さんの間の携帯を掴み、ホームに降りる。
前を歩くカップル。この人たちだ。携帯を突き出しながら大きめな声で呼びかける。
「あの!携帯忘れてないですか!」
「あ…はい、ありがとうございます!」
受け取ったのを確認するとそのお礼も碌に聞かずに電車に戻る。
オレは少し興奮していた。
周囲の視線が恥ずかしい。達成感も同時にある。
 
Aは言った。
車掌はその出来事を理解し、出発を遅らせたんだと。
そして発車する時、ホームの二人は頭を下げていたと。
 
カップル。
よそ見しててすいません。
車掌…。
さっきは「この車掌の滑舌オレ以下だな^w^」とか言ってて悪かった。
 
一連の出来事が終わり、オレは強烈に理解した。
今までの様々な行動に裏付けられるオレの性質。
オレの行動に対する強い動機は「誰もやらないから」等必要性の上にのみ生まれる。
その謂わば実行するか否かの決定ラインはとても深すぎて普段の生活では滅多にお目にかかれない。
残念です。